人生の3大支出の1つである住宅費用。住宅を建てる・買う・借りる、など住まいの選択はいろいろありますが、避けて通れないのが自然災害です。
中でも、「地震・津波・噴火」はいつ起きるか予想ができません。そして、地震や津波でもっとも被害を受ける「住宅」は、一般的な火災保険では補償されないのです。
最近は気候変動の影響で洪水や台風による被害が注目されがちですが、大地震は忘れた頃にやってきます。大地震が起きる前に、保険も物資も備えておくことが大事です。
今回は、地震や津波の被害を補償する「地震保険」の必要性と、その選び方について初めての方にもわかりやすく解説します。
※2022年7月時点の情報です
地震保険のしくみ
地震保険は、居住用の建物や家財を対象とした火災保険(住宅火災保険・住宅総合保険・店舗総合保険等)に付けることができます。また、必ず加入しなければならないという保険ではありません。
損害保険料率算出機構「2020年度 地震保険付帯率」によると、日本全国の火災保険加入者の地震保険付帯率は68.3%となっています。この数値は、統計を取り始めた2001年度以降で、過去最高の付帯率になっています。
単独では契約できない
地震保険は単独では契約できず、必ず火災保険とセットで契約することになっています。
契約時に地震保険を付けなかった場合でも、保険期間の途中から契約することが可能です。契約期間の途中から契約する場合は、火災保険を契約している損害保険会社または代理店にご相談下さい。
ただし、地震が発生するリスクが高くなると、政府によって警戒宣言※が発せられることがあります。その場合「地震保険に関する法律」にもとづき、地震防災対策強化地域として指定された地域については、地震保険の新規契約ができなくなる場合があります。
※内閣府ホームページ|大規模地震対策特別措置法における 地震防災応急対策の実施体系と警戒宣言の意義http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taio_wg/pdf/h290526shiryo04.pdf
警戒宣言が出てからあわてて契約しようとしても、できない可能性があります。地震保険への加入を迷っている方は、早めの備えとして契約を検討しておいた方が良いかもしれません。
参考:単独で加入できる地震補償保険
単独での契約ができない地震保険とは別に、単独でも、加入が可能な「地震補償保険」があります。
そのため、地震保険の上乗せとして利用されることが多い保険です。
一般の地震保険とは内容が異なりますが、保険金は地震保険とは別枠で支払われるため地震保険で受け取る保険金とあわせて備えることができます。
補償される損害と内容
地震保険は、地震または津波、噴火などが直接・間接の原因とする火災や、損壊などによって生じた建物や家財の損害を補償します。
- 補償の対象:居住用の建物、生活用動産、店舗や事務所併用住宅
- 対象外:工事や事務所など住居として使用されていない建物、自転車、小切手や商品券などの有価証券
ここで注意したいポイントは、火災保険では地震などによる火災によって生じた損害や、火災が地震によって延焼、拡大したことにより生じた損害はどちらも、補償の対象にはならないことです。
火災保険に入っていれば火災によって生じた損害全てが補償される、と思われている人も多いようですが、おおもとの原因が地震の場合は補償されません。
大きな地震が発生した際は、自分の家が出火元でなくても、住宅街の場合は延焼のリスクがあります。
たとえば、2011年の東日本大震災では船から流れ出た重油が水面で炎上し、それが津波となって陸地に押し寄せたため津波だけでなく、火災の被害も甚大となりました。
地震による火災に備えるという点でも、地震保険は重要な役割を果たします。
上限が決まっている保険金額
地震保険の保険金額は「地震保険に関する法律」によって、契約する火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内と定められています。
それとは別に金額の上限も決まっており、建物5,000万円、家財1,000万円となります。
地震の発生は予測ができず、発生した場合の被害も広範囲にわたり損害額が多大になる傾向があります。その損害額すべてに対応するには損害保険会社の支払い能力や国の財政にも限度があるため、上限が決められているのです。
保険金の支払い
保険金の支払いは、その損害状況によって金額が変わります。
保険開始期間が2017年1月1日以降の地震保険契約の地震保険の場合、建物・家財の被害状況を以下の4種類にあてはめ判断し、状況に応じた保険金を支払います。
- 全損:保険金額の100%(ただし、時価が限度)
- 大半損:保険金額の60%(ただし、時価の60%に相当する額が限度)
- 小半損:保険金額の30%(ただし、時価の30%に相当する額が限度)
- 一部損:保険金額の5%(ただし、時価の5%に相当する額が限度)
また、1回の地震等につき保険金総支払限度額は、現時点で政府と民間保険会社が持つ民間保険責任額とを合わせて12兆円になります。
地震保険に入っていても一定以上の損害がでないと保険金は出ませんが、被害が大きければ大きいほど生活再建にお金がかかります。
そう考えると万が一の際、地震保険は経済的な助けになるはずです。
多額の貯蓄がある、今の住まいが地震により住めない状況になってもほかに身を寄せる家がある場合などを除いて、地震保険の必要性を考えてみてはいかがでしょうか。
保険金の支払いについての詳細は、財務省HPの地震保険制度の概要ページ「保険金の支払い」をご参照下さい。
https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm#4
保険料はどうやって決まるの?
都道府県と建物の構造によって決まる
地震保険料は地震保険法にもとづき、損害保険会社を通じて提供された地震保険を再保険によって政府が保険責任を分担するという官民一体の制度となっています。
そのため、同じ補償内容・補償金額ならどこの保険会社で加入しても、保険料は同一です。
しかし、地震の被害にあう可能性が高い都道府県ほど保険料が高く設定されているため、補償対象になる建物や家財の所在する都道府県により保険料率が変わります。
実際に都道府県別の保険料を比較してみましょう。
以下は、財務省HPの地震保険制度の概要ページ「地震保険の保険料」の基本料率(令和3年1月1日以降保険開始期の地震保険契約)を元に作成した表です。
● 保険開始時期が2021年1月1日以降の地震保険の基本料率(建物・家財)保険料の一例
保険金1,000万円あたり保険期間1年につき(単位:円)
都道府県 | イ構造 (主として鉄骨・コンクリート造建物等) | ロ構造 (主として木造建物等※) |
---|---|---|
北海道、青森、岩手、秋田、山形、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、滋賀、京都、兵庫、奈良、鳥取、島根、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島 | 7,100 | 12,300 |
福島 | 9,700 | 19,500 |
宮城、山梨、愛知、三重、大阪、和歌山、香川、愛媛、大分、宮崎、沖縄 | 11,800 | 21,200 |
茨城、徳島、高知 | 17,700 | 36,600 |
徳島、高知 | 17,700 | 41,800 |
埼玉 | 20,400 | 36,600 |
千葉、東京、神奈川、静岡 | 27,500 | 42,200 |
※「耐火建築物」、「準耐火建築物」および「省令準耐火建物」等に該当する場合は「イ構造」となる。
この表をみて分かるように、首都圏と静岡の保険料が全国でもっとも高くなっています。それだけこの地域は、地震による被害にあう可能性が高いとされていることが分かります。
各種割引がない場合、東京都内の木造住宅にかかる1年間の地震保険料は「42,200円」となります。
この保険料額をみてためらってしまうかもしれませんが、いざ地震の被害にあった場合の保険金は生活再建のかなめです。
保険料だけで判断してしまうのではなく、万が一の際、生活に必要となる補償額を今一度検討してみてはいかがでしょうか。
保険料の割引率は4種類
住宅の耐震性能に応じて、4種類の割引制度があります。重複で適用はされません。
- 建築年割引:割引率10%
建物が1981年6月1日以降に新築された建物である場合 - 耐震等級割引: 法律に基づき定められた建物、またはその建物内にある家財の耐震等級が1~3に該当する場合の割引率。等級ごとの割引率は以下のとおり。
・耐震等級3に該当:割引率50%
・耐震等級2に該当:割引率30%
・耐震等級1に該当:割引率10% - 免震建築物割引:50%
法律に定められた免震建築物である建物である場合
- 耐震診断割引:割引率10%
耐震診断または耐震改修の結果、法律の規定と同等の建築基準法に定める現行の耐震基準に適合する耐震性能があると判断された建物である場合
4種類の割引制度をみると、免震建築物または耐震等級3であると最大で50%も割引になります。
それだけ、地震の被害にあいにくい建物構造だということになります。
長期契約における割引
地震保険は1年ごとに契約の更新をするよりも、2年~5年の長期契約にすると基本的に保険料が割引されます。
長期契約の保険料は、以下の表の長期係数を乗じて算出されます。
期間 | 係数 |
---|---|
2年 | 1.90 |
3年 | 2.85 |
4年 | 3.75 |
5年 | 4.65 |
2022年度以降に地震保険料が改定予定
2021年1月に地震保険料の改定がされたばかりですが、損害保険料算出機構は金融庁長官に対し、2021年6月10日に地震保険基準利率の届け出を行いました。
それにともない、改定日は未定ですが地震保険料と長期契約の割引が見直される予定です。
届け出の概要は、地震保険の基本料率を全国平均で0.7%引き下げるが、建物の所在地や構造により引き上げ・引き下げになる区分が異なります。
最大の引き上げ幅になるのは埼玉県・茨城県・徳島県・高知県のイ構造(鉄骨造・コンクリート造の建物)で+29.9%、最大の引き下げになるのは大分県のロ構造(木造建物)で-47.2%です。
※参考:https://www.giroj.or.jp/ratemaking/earthquake/202106_news.html
地震保険料の改定とあわせ、長期係数も見直される予定です。
現在地震保険を検討中でまだ加入していない方は、ご自身のお住まいが基本料率の引き上げ対象になっている場合、改定前に5年の長期契約を結ぶと保険料が安くなります。
逆に、基本料率の引き下げ対象に該当する場合は、慌てて入らずに5年の長期契約の割引と基本料率でトータルで計算して、保険料が安くなるタイミングでの加入が良いのではないでしょうか。
お住まいの地域によって加入時期を検討してみてはいかがでしょうか。
地震保険料控除の利用
地震保険料控除は、その払込保険料に応じて一定の額がその年の保険料負担者である契約者の課税所得金額から引かれる制度です。
申告をすれば契約者の申告にもとづき、課税所得金額から所得税は最高5万円、住民税は最高25,000円を控除することが可能です。
所得控除の対象となるのは、本人または本人と生計を一にしている配偶者その他の親族が所有している居住用家屋・生活用動産を保険の対象とする地震保険契約です。
地震保険料控除の手続きは年末調整と確定申告、どちらでも行うことが可能です。
会社員の方が年末調整で手続きする場合は、会社から受け取る「給与所得者の保険料控除申告書」に必要事項を記入し、地震保険料控除証明書を添付して提出するだけです。
年末調整で手続きをしなかった場合や、自営業者の方は確定申告で手続きを行います。
確定申告期間内に税務署の窓口、または郵送、オンライン上での電子申告などで申告を行います。
確定申告書における、地震保険料控除の記入の仕方については最寄りの税務署にご確認下さい。
地震保険は必要?
ここまで地震保険の概要についてみてきましたが、自分にとってそこまで必要性があるのか疑問が残る方もいると思います。
地震保険への加入が必要かどうかは、住んでいる地域や建物構造、お持ちの資産やお住まいの種類などによって変わります。
ここでは、それぞれの項目ごとに地震保険加入の必要性についてご説明いたします。
住んでいる地域・住まいの構造から考える必要性
特に大きな地震は、一定周期ごとに発生するといわれています。そのため住んでいる地域によって発生リスクは異なります。
また、地震が発生した場合でも建物の構造によって被害状況は異なります。
数十年以内に大きな地震が発生する可能性が低いといわれる地域にお住まいの方や、耐震や免震構造の建物にお住いの方などは、地震の被害にあう可能性があまり高くないと想定されるため、地震保険の必要性が低くなります。
しかし、地震の被害に遭う可能性の低い都道府県であるはずの熊本や北海道でも、過去大きな地震に見舞われ甚大な被害が出ました。
地震大国である日本において、数十年の期間でみると地震の被害にあわない地域自体少ないのかもしれません。
資産状況から考える必要性
住んでいる地域や建物構造が同じでも、所有している資産によって損害に対する備えが異なります。
地震で今までの住まいに住めなくなっても再建できるだけの貯蓄がある人や、親戚の家や他地域にも家を持つなど、避難してその後も長く住める住宅がある人の場合、地震保険からの保険金に頼る必要性は低くなります。
しかし、そのような余裕もなく地震の被害にあった場合、避難所や仮設住宅、新しい住まいを借りるなどして住居を確保しながら、自宅の再建を進める必要があります。
また、損害を受けた住まいに住宅ローンが残っている場合、住宅ローンの返済と、新しい住まいにかかる費用(家賃等)との2重の負担がかかります。また、住宅ローンの返済が滞ると、損害遅延金も発生するリスクがあります。
大地震が発生した場合は各金融機関や自治体等による優遇措置が行われることがあります。地震被害により居住できなくなった場合は、早めに借入れ先の金融機関に相談をしましょう。
地震保険は建物を元通りに立て直す目的ではなく、「生活再建のための一時金」としての目的が強い保険です。そのため、保険金の使途を限定していません。
あなたの資産や頼れる身内などをじっくり考え、加入を検討されるのが良いでしょう。
住まいの種類から考える必要性
お住いの住居が賃貸か持ち家か、一戸建てかマンションなどの集合住宅かで、地震保険加入の要不要が異なります。
賃貸の場合
賃貸にお住いの場合は、借主に地震による建物の損害を補償する義務はありません。基本的に物件のオーナーが地震保険に加入していますので建物の補償は不要です。
家財に補償を付けたい場合にだけ、地震保険に加入すれば良いのではないでしょうか。
一戸建ての場合
一戸建ての場合、多くは木造建築であるため、地震を起因とした火災被害や倒壊被害へのリスクがあります。所有している資産でどこまでカバーできるかを確認したうえで、地震保険への加入を検討しましょう。
マンションなどの集合住宅の場合
マンションなどの集合住宅の場合は一戸建てと異なり、補償範囲が専有部分と共用部分にわかれます。
専有部分は基本的に住んでいる人が保険に加入しますが、エレベーターやエントランスなど住民が共同で使用する、共用部分に関してはマンション管理組合が契約します。
しかし、管理組合によっては地震保険に加入していないケースもあります。
過去に地震の被害にあい積み立てていた修繕資金が不足してしまったマンションもあったようです。
マンションにお住まいの方は、共用部分も地震保険に加入しているか管理組合に、一度確認してみたほうが良いかもしれません。
地震保険の選び方
地震保険は、地震で壊れた建物や設備を元通りにすることを目的とする保険ではなく、地震などによる被災者の生活の安定と生活再建を目的とした保険になります。
選び方としては主な契約となる火災保険の補償内容や保険料を重視して選ぶようにしましょう。
その上で、地震保険に加入する期間、支払う金額の設定の仕方について考えてみましょう。
保険期間
火災保険の保険期間は最長10年ですが、地震保険は最長5年です。地震保険は1年~5年まで保険期間を選べますが、先ほど紹介した「長期契約における割引」を利用することで、契約年数が長いほど保険料が安くなります。
保険期間は5年にすると保険料が一番安くなる、ということになります。
ただし、2022年度以降に長期係数の見直しが予定されています。見直された後は2~4年契約は現行と変わりませんが、5年契約の割引率のみ現行より1%低くなります。
そのため、長期係数の見直し前に5年の長期契約をすると、保険料が抑えられます。
保険金額の設定
地震保険で、どのくらいの保険金を備えるかは個々の状況によって変わります。
そのため、まずはあなたが地震の被災者となった場合を想定してみてください。地震が発生し、建物や家財がほとんど失われる被害にあったとイメージします。
当面の住まいを確保して生活を立て直すまでの期間に必要な生活費を予測し、住宅ローンがある場合はその返済金額も加味してどのくらいの補償が必要かを判断します。
当面の住まいは避難所や仮設住宅など、国や自治体からの公的支援が望める場合もありますし、被災者生活再建支援金の支給などもあります。
それらを含め総合的に考えて、必要な補償額をある程度見積もって保険金額を設定しましょう。
備えあれば憂いなし
地震保険の必要性は、人によって異なります。
しかし地震大国である日本で、いつあなたが地震の被災者になるかは予測できません。
一度被災してしまうと、大けがをするかもしれませんし、通常生活とは異なる環境やストレス、情報不足などで正常な判断が難しくなることも予想されます。
地震保険の加入を迷ったときは、お住まいの地域や構造、資産状況などから考えてみるとよいでしょう。
鎌倉市出身、逗子市在住。未就学児~小学生、2男1女の母。
大学を卒業後、証券会社や運用会社に10年以上勤務し、お客様対応や相談業務・営業などに従事。3人目の子どもを産んだことをキッカケに独立し、相談者のニーズに合った、価値あるアドバイスを提供するファイナンシャルプランナーとして活動している。得意分野は資産運用。
また「キッズ・マネー・ステーション認定講師」として3歳~大学生まで、小さいころから正しいお金との付き合い方などを「楽しく・わかりやすく」教えている。難しいお金の話を子供向けにわかりやすく伝える工夫を日々行っているおかげか、ご相談者やセミナー聴講者に「話がわかりやすく、スッと入ってくる」と好評をいただいている。