万が一、病気やケガで長期間働けなくなってしまった場合、医療費などの支出が増加するだけでなく収入が減少するリスクもあります。
それでも毎月の生活費や子供の教育費、ローンの返済などは待ってくれません。
短期間であれば預貯金で対応できるかもしれませんが、長期間にわたってとなると心配ですよね。
今回ご紹介する「就業不能保険」は、そのような働けなくなってしまった事態に備えるための保険です。
まずは働けなくなってしまった時に受けられる公的な保障を知ったうえで、「就業不能保険」とは何なのか、その必要性について詳しく解説いたします。
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働けなくなった時に、公的保障だけでは足りない?
働けなくなった時の公的保障として「傷病手当金」と「障害年金」がありますが、この公的保障だけで生活をすることは可能なのでしょうか。
傷病手当金とは
健康保険加入の会社員は、業務外の病気やケガで会社を休んだ日から連続して3日間のあと、4日目以降最長1年6ヶ月までの間、給与の支払いがないなどの条件を満たした場合に傷病手当金が支給されます。
基本的な1日あたりの支給金額は、支給開始日以前12カ月間の標準報酬月額の平均値を30で割った額の3分の2相当額となります。
詳しい計算方法は、以下の通りです。
1日あたりの金額は「標準報酬月額の平均÷30×2/3」
例えば、毎月約30万円の給与を受け取っていた場合、支給を開始した日から最長で1年6カ月の間、毎月約20万円の傷病手当金を受け取ることができます。
ただし、国民健康保険にはこの傷病手当金の制度はありません。
つまり国民健康保険に加入する自営業者の方などがケガや病気で働けなくなると、いきなり収入がなくなってしまうリスクがあるのです。
障害年金とは
障害年金は、業務上・業務外に関わらず病気やケガなどで障害が残り、生活や仕事が制限されてしまった場合に国から受け取ることのできるお金です。
傷病手当金が1年6カ月の間受給できるのに対し、障害年金は初診日から1年6カ月経過した日(1年6カ月の間にその症状が固定し、治療しても効果が期待できない場合はその日)から支給されます。
年金といっても老齢年金と違い、現役世代でも受け取ることができます。
障害年金には、国民年金に加入している人が受けとれる障害基礎年金と、厚生年金に加入している人が障害基礎年金に上乗せして受け取れる障害厚生年金があります。
障害厚生年金を受け取るには、障害基礎年金の保険料納付要件を満たし、かつ初診日に厚生年金の被保険者である必要があります。
家族構成や障害等級によって支給額は異なりますが、障害基礎年金の支給額は以下の通りです。
障害基礎年金 | 配偶者のみ | 配偶者と子供1人 | 配偶者と子供2人 |
---|---|---|---|
障害等級1級 | 年額97万6,125円 | 年額120万825円 | 年額142万5,525万円 |
傷害等級2級 | 年額78万900円 | 年額100万5,600万円 | 年額123万300円 |
※出典:日本年金機構「障害基礎年金の年金額(令和3年4月分から)」
障害厚生年金は、上記の支給額にプラスして支給されます。(給与額によってプラスされる金額が異なります)
傷病手当金や障害年金で受け取れる金額をみてどのように感じられたでしょうか。
短期間であれば何とか預貯金を取り崩しながら生活できるかもしれませんが、長期間となるとそうともいきませんよね。
つまり、公的保障だけで今の生活を維持するのはなかなか難しいといえるでしょう。特に自営業者の方は傷病手当金が受け取れないことから、より万全に備えておく必要があります。
そのような場合に役に立つ保険が「就業不能保険」なのです。
就業不能保険とは
就業不能保険は、その名の通り働けなくなってしまったときに支払われる保険です。
契約時に設定した給付金額が保険期間満了までお給料のように毎月支払われる仕組みになっていることがほとんどです。
この就業不能保険は比較的新しいタイプの保険というのもあり、死亡保険や医療保険と比べると認知度はまだ低いかもしれません。
令和3年度の生命保険に関する全国実態調査<速報版>(※1)によると、亡くなったとき等に備えて生命保険に加入している人の割合は全体で8割を超えていますが、それに対して就業不能保険に加入している人の割合は2割程度と多くありません。
しかし、実際には病気やケガなどで亡くなる確率よりも長期間働けなくなる確率の方が高いとされています。(※2)
就業不能保険は、そのような長期間の収入減少によるリスクをカバーするために作られた保険です。
※1参考:2021(令和3)年度の生命保険に関する全国実態調査<速報版>
※2参考:全国健康保険協会「令和2年度 現金給付受給者状況調査」
厚生労働省「人口動態統計 2020年」表5-15 死因(死因年次推移分類)別にみた性・年齢(5歳階級)・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)
毎月いくら受け取れる?
就業不能保険から受け取る毎月の給付金額は、家族構成や自身のライフプランに合わせて選択が可能です。
実際に設定できる給付金額の選択肢は各社さまざまですが、給付月額の設定幅としては5万円から50万円までとなっている場合が多いようです。
ただし、年収によって設定できる金額に上限がある保険会社もあるため、事前に確認しましょう。
受け取り方は?
給与と同じように月々受取るタイプが一般的ですが、保険会社によっては一括で受取る方法や、一部のみ一括で受取る方法を選択できる場合もあります。
給付金額も傷病手当金を受け取れる期間は少額で、それ以降は増額できるタイプもあります。
保険期間はいつまで?
就業不能保険は、現役で働いている間に病気やケガをして収入が減ったときのリスクに備える保険です。
そのため、保険期間は定年に近い55歳頃から70歳頃までに設定できる保険会社がほとんどのようです。
子供が独立するまで、住宅ローンを完済するまで、年金を受給開始する時までなど、何歳まで保障が欲しいか、給付金を受取りたいかを考えて設定しましょう。
何歳までの人が加入できる?
基本的には20歳から60歳までの方が契約対象となっている場合が多いようですが、中には18歳から加入できる商品もあるようです。
また、60歳満了タイプの契約可能年齢は満20歳から満50歳までですが、70歳満了タイプは満20歳から満60歳までが契約可能など、保険期間を何歳までに設定するかで契約可能年齢が変わる場合もあります。
主婦(主夫)は加入できる?
意外と思われる方もいるかもしれませんが、加入できます。
ただし、加入可能な条件は各社により異なりますので確認しておきましょう。
家事を外での労働に置き換えた場合、月収換算でおよそ30万円前後になるともいわれています。
直接収入を得ているわけではないため見えにくい部分ではありますが、家事ができなくなったときに家事代行サービスを利用したりと、出費が増える可能性があります。
実家から離れて暮らしているなど、周囲に手伝ってくれる人がいない人にとっては心強いですね。
就業不能保険はどんな時に支払われる?
では、具体的にどのような時に給付金が支払われるのでしょうか。
まず、就業不能状態の定義として主に以下のような状態が示されています。
- 病気やケガの治療を目的として入院している状態
- 病気やケガにより、医師の指示のもと自宅にて治療に専念している状態
上記に加え、障害者等級2級以上に認定された場合や要介護2以上の状態と認定された場合など、各社それぞれの定義があります。
逆にいうと、上記の理由に当てはまらない場合は支払われないということになります。
保険会社によっては、うつ病などの精神疾患も対象となる保険もあるため、内容を比較しながら決めると良いでしょう。
支払い事例
Aさんは、交通事故で右足の大腿骨を含む複数箇所を骨折しました。救急搬送され、骨折箇所を固定するための手術を受けました。術後の経過が順調なことからリハビリテーション病棟に移り、機能の回復に専念しました。63日間継続して入院し、退院後も定期的に通院しながら自宅でリハビリを継続しました。幸い後遺症は残らず、今は、仕事にも復帰しています。
※個人の方のエピソードをもとに構成しており、治療などの条件はすべての方にあてはまるわけではありません。
Bさんは、仕事中にくも膜下出血で倒れ、大学病院に救急搬送されました。幸いにも一命は取り留めたものの、180日間入院しました。退院後は、医師の指示にもとづき、自宅で在宅療養(*)をしていましたが、記憶にも障害が残り、発症して1年6カ月後には障害等級2級に認定されました。その後も、訪問看護サービスを利用しながら、在宅療養を継続しています。
(*)治療に専念し、自宅などからの外出が困難な状態(病院への通院など治療のために必要な外出を除く)
※個人の方のエピソードをもとに構成しており、治療などの条件はすべての方にあてはまるわけではありません。
ほかの保険との違いは?
就業不能保険と似ている保険に所得補償保険があります。
働けなくなった際の収入減少に備える保険という点は変わりがないのですが、提供している保険会社に違いがあります。
就業不能保険は生命保険会社、所得補償保険は損害保険会社が提供しています。
また所得補償保険は、支払い対象期間が数年間と短期間のものが多いのが特徴です。
保険料は年齢や職業によって異なり、ケガなどのリスクの高い職業に従事している場合は高く設定されています。
契約時の保険証券に記載された業務に従事できない場合に保険金が支払われるようになっており、設定できる保険金額は「平均月間所得の◯割」と保険会社によってそれぞれ定められています。この割合は加入する公的医療保険制度によっても異なるため、事前に確認してみましょう。
就業不能保険のメリット・デメリット
では、具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのかを以下にまとめました。
まずはメリットから確認しましょう。
メリット1:長期間にわたり保障をしてくれる
例えば、医療保険の場合は保険金の支払われる日数の上限が決められています。
最近では、入院限度日数が60日の医療保険が多くなってきているようです。
就業不能保険では、基本的に働けない期間は満期までずっと給付金が支払われ続けます。
長期的なサポートが保障されている就業不能保険は、金銭面だけでなく精神的な面でもメリットがあるといえるでしょう。
メリット2:在宅療養も対象
近年、医療の進歩や入院治療から在宅療養にシフトしていっていることを受け、入院日数が年々短くなってきています。
生命保険文化センターの「令和元年度 生活保障に関する調査」によると、平均的な入院日数は15.7日、またおよそ95%の人が60日以内に退院しているようです。(※)
このとき医療保険では退院して在宅療養に切り替えた場合、退院給付金が出る場合もありますが基本的に保障の対象とはなりません。
それに対して、就業不能保険は入院・在宅いずれの療養も医師の指示によるものであれば保障の対象となります。
※参考:生命保険文化センター「令和元年度 生活保障に関する調査」
次に、デメリットについても確認しましょう。
デメリット1:支払い対象外期間がある
就業不能保険では、ほとんどの場合支払い対象外となる期間が設定されており、その間は給付金が受け取れないため、預貯金や医療保険などで対応する必要があります。
多くの場合は働けなくなってから60日間と設定されていますが、60日間・180日間から選択可など保険会社によって異なっています。
デメリット2:元の職場に復帰できなくても働ければ保障外
あくまでも「働けない状態」に給付されるため、在宅療養といっても医学的にみて自宅から外出できる状態や、軽作業などの作業ができる状態では保障外となります。
それまで従事していた仕事に復帰できるかできないか、の判断ではないため注意が必要です。
まとめ
ここまで、就業不能保険について詳しくみてきました。
昨今では新型コロナウイルス感染症に罹患し働けなくなった場合も、証明書の提出などの条件を満たすことで保障の対象となるようです。注意点を含め、各保険会社の情報を確認しておきましょう。
就業不能保険は、万が一の際にはとても心強い保険となります。
公的保障があるとはいえ収入減少分を預貯金で対応しきれない、毎月の給与ギリギリで生活をしているという人の場合は、しっかりと対策を考えておく必要があります。
突然働けなくなった場合を想定し、自分にとって必要かどうか検討してみてはいかがでしょうか。
FPサテライト株式会社所属ファイナンシャルプランナー
鎌倉市出身、逗子市在住。未就学児~小学生、2男1女の母。
大学を卒業後、証券会社や運用会社に10年以上勤務し、お客様対応や相談業務・営業などに従事。3人目の子どもを産んだことをキッカケに独立し、相談者のニーズに合った、価値あるアドバイスを提供するファイナンシャルプランナーとして活動している。得意分野は資産運用。
また「キッズ・マネー・ステーション認定講師」として3歳~大学生まで、小さいころから正しいお金との付き合い方などを「楽しく・わかりやすく」教えている。難しいお金の話を子供向けにわかりやすく伝える工夫を日々行っているおかげか、ご相談者やセミナー聴講者に「話がわかりやすく、スッと入ってくる」と好評をいただいている。