2011年3月の東日本大震災以降、地震保険の加入率は特に増加傾向にあります。
とくに持ち家がある方は「地震保険の保険料っていくら?保険金ってどのくらいもらえるの?」と不安な気持ちかもしれません。
この記事では、地震保険料をご自身でも計算できるよう、具体例をあげながら解説します。
また損害の程度によって保険金がいくらもらえるのかもご紹介していきます。
地震保険とは
地震保険は1964年の新潟地震をきっかけに誕生した、地震等の被害から居住用の建物と家財を補償する損害保険です。
地震保険は、地震等による被災者の生活を平等に守るために国と民間の保険会社が共同で運営する公共性の高い保険です。
そのため、どの保険会社でも補償内容や保険料は同じなのです。また、地震保険は単独では契約できず、火災保険とセットでの加入が必要になります。
地震保険の保険料の計算方法
地震保険料の計算に必要な数値について、一つずつみていきましょう。
保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料(1) × 長期契約の係数(2) ×(100%-割引率(3))=地震保険料(年間)
(1)(2)(3)について詳しく説明していきます。
(1)保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料
保険料は対象となる建物の都道府県別の所在地と構造から、保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料が定められています。
保険金額1,000万円あたり保険期間1年につき (単位:円)
都道府県 | イ構造 鉄骨・コンクリート | ロ構造 木造 |
---|---|---|
北海道、青森、岩手、秋田、山形、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、滋賀、京都、兵庫、奈良、鳥取、岡山、広島、山口、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島 | 7,400 | 12,300 |
宮城、山梨、愛知、三重、大阪、和歌山、香川、愛媛、大分、宮城、沖縄 | 11,800 | 21,200 |
福島 | 9,700 | 19,500 |
茨城 | 17,700 | 36,600 |
埼玉 | 20,400 | 36,600 |
千葉、東京、神奈川、静岡 | 27,500 | 42,200 |
徳島、高知 | 17,700 | 41,800 |
詳細資料1
なお、基本料率は令和3年6月に見直され、損害保険料率算出機構から金融庁に変更の届出が行われています。各社はこれに従い保険料を改訂する予定です。
(2)長期契約の係数(2年~5年)
地震保険の保険期間は、最長5年です。
1年契約も可能ですが、2年以上にすると長期契約となり、(1)の保険料に長期係数を乗じて算出されます。
期間 | 係数 |
---|---|
2年 | 1.90 |
3年 | 2.85 |
4年 | 3.75 |
5年 | 4.65 |
詳細資料2
(3)割引制度
地震保険では、対象建物の建築年や耐震性能により割引制度が適用されます。
保険料割引は建物と家財に対して、10%~50%です。なお、割引制度を重複して使用することはできません。
割引制度 | 割引の説明 | 割引率 |
---|---|---|
免震建築物割引 | 対象物件が、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく「免震建築物」である場合 | 50% |
耐震等級割引 | 対象物件が、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に規定する日本住宅性能表示基準に定められた耐震等級 (構造躯体の倒壊等防止) または国土交通省の定める「耐震診断による耐震等級 (構造躯体の倒壊等防止) の評価指針」に定められた耐震等級を有している場合 | 耐震等級3:50% 耐震等級2:30% 耐震等級1:10% |
耐震診断割引 | 対象物件が、地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、建築基準法(昭和56年6月1日施行)における耐震基準を満たす場合 | 10% |
建築年割引 | 対象物件が、昭和56年6月1日以降に新築された建物である場合 | 10% |
詳細資料3
※詳細資料1、詳細資料2、詳細資料3のいずれも、財務省HP 「地震保険の概要」
それでは、いくつかの例をあげて保険料を計算してみましょう。
保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料(1) × 長期契約の係数(2) ×(100%-割引率(3))=地震保険料(年間)
例1
・所在地:東京都
・構造:鉄骨鉄筋コンクリート造、免震建築物、耐震等級3、耐震基準を満たす
・保険期間:5年間
・建築年:平成28年
・保険金額:2,000万円
- (1)保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料:27,500円×2=55,000円
- (2)長期契約の係数:4.65
- (3)割引制度:100%-50%=50%
- 年間保険料:(1)55,000円×(2)4.65×(3)50%=127,875円÷5年=25,575円
<解説>
(1):(詳細資料1)から「東京都にあるイ構造」の保険料が、「27,500円」と分かります。保険金額が2,000万円のため、「2」を乗じます。
(2):保険期間が5年となるので(詳細資料2)の5年係数の「4.65」を乗じます。
(3):(詳細資料3)の割引制度の部分から、免震建築物/耐震等級3/耐震基準を満たす構造の3点とも適用されることがわかります。しかし、割引制度の重複不可となるため、最も割引率が良い「50%」を適用して計算します。
保険料:よって、5年間の保険料は127,875円、年間「25,575円」となります。
では、別のパターンでも計算してみましょう。
例2
・所在地:茨城県
・構造:鉄筋コンクリート造、耐震等級2、耐震基準を満たす
・保険期間:5年間
・建築年:平成5年
・保険金額:2,000万円
- (1)保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料:17,700円×2=35,400円
- (2)長期契約の係数:4.65
- (3)割引制度:100%-30%=70%
- 年間保険料:(1)35,400円×(2)4.65×(3)70%=115,227円÷5年=23,045.4円
<解説>
耐震等級2/耐震基準を満たす構造のうち、割引率の高い耐震等級2の「30%」を使用します。
例3
・所在地: 千葉県
・構造: 木造、準耐火建築物
・保険期間:1年間
・建築年: 昭和59年
・保険金額:1,000万円
- (1)保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料:27,500円×1=27,500円
- (2)長期契約の係数:適用なし
- (3)割引制度:100%-10%=90%
- 年間保険料:(1)27,500円×(3)90%=24,750円
<解説>
木造の場合、通常「ロ構造」となりますが、準耐火建築物に該当するため「イ構造」となります。
また、建築年が昭和56年6月1日以降の建物のため、「10%」割引制度が受けられます。
例4
・所在地: 北海道
・構造: 木造
・保険期間:3年間
・建築年: 昭和55年
・保険金額:1,000万円
- (1)保険金額1,000万円(保険期間1年間)あたりの保険料: 12,300円
- (2)長期契約の係数:2.85
- (3)割引制度: 適用なし
- 年間保険料:(1)12,300円×(2)2.85=35,055円÷3年=11,685円
<解説>
建築年と構造から、割引制度の適用がないことが分かります。
このように「所在地・構造・保険期間・建築年・保険金額」から、ご自身で保険料を算出できます。
地震保険の基本料率は変動する
先ほどご紹介した地震保険の基本料率の元となる基準料率は、損害保険料率算出機構が算出・検証を行い、社会環境の変化に応じて適宜改訂しています。
近年では、平成29年、平成31年、そして令和3年に実施されました。
その中身は、平成31年に全国平均で5.1%引き上げとしたものの、令和3年には平均で0.7%引き下げられました。
このように、地震保険の保険基本料率は改定のたび必ず上がるというわけではなく、世の中の状況に合わせて変動しているのです。
参考資料:損害保険料率算出機構「地震保険基準料率表(2021年6月10日届出)」
保険料の計算を行う際は、財務省などの公式サイトから最新の情報を確認しましょう。
保険金はどのくらいもらえるか
地震保険の保険金は、地震、噴火またはこれらによる津波が起こった際に生じた住居用の建物および家財の損害に度合いによって決定されます。
地震保険の保険金の上限は、建物5,000万円、家財1,000万円です。
ただし、工場や事務所など住居以外の建物や、1個または1組の価値が30万円を超える貴金属や宝石、有価証券などは、補償の対象外となります。
損害の区分方法
保険始期日が平成28年12月31日以前と平成29年1月1日以降で区分方法が変わります。
1.保険始期日平成28年12月31日以前に契約した場合
損害区分は、以下の3つに分けられます。
- 全 損:地震保険の保険金額の100%(時価額が100%限度)
- 半 損:地震保険の保険金額の50%(時価額が50%限度)
- 一部損:地震保険の保険金額の5%(時価額が5%限度)
(区分の基準となる詳細資料1)
2.保険始期日平成29年1月1日以降に契約した場合
損害区分は、以下の4つに分けられます。
- 全 損:地震保険の保険金額の100%(時価額が100%限度)
- 大半損:地震保険の保険金額の60%(時価額が60%限度)
- 小半損:地震保険の保険金額の30%(時価額が30%限度)
- 一部損:地震保険の保険金額の5%(時価額が5%限度)
(区分の基準となる詳細資料2)
※区分の基準となる詳細資料1、区分の基準となる詳細資料2のいずれも、財務省HP 「地震保険の概要」
次に2つの事例から、どの程度の損害で保険金がいくらもらえるのか、シミュレーションをしてみましょう。
例1
地震が発生して建物の壁面に亀裂が生じ、グラスも何点か割れてしまいました。
さらに50万円の時計も壊れてしまいました。補償範囲が建物800万円と家財200万円の地震保険に、令和元年8月1日から加入しています。
<解説>
建物の壁面の亀裂に関しては、建物の一部損が適用されます。
「グラスが何点か割れてしまった」という部分は、家財全体の時価総額10%よりも下回るものになり適用されないでしょう。50万円の時計に関しても補償対象外となるため適用されません。
保険始期日は令和元年8月1日となりますので、(詳細資料2)を照らし合わせて計算しましょう。
建物の保険金額800万円×一部損5%=保険金としてもらえる金額=40万円
例2
地震が発生して、建物の主要構造物が50%の損害をうけ、さらに家財も50%の損害となってしまいました。
保険始期日が平成28年12月1日、建物1,000万円と家財500万円の地震保険に加入しています。
<解説>
地震で生じた建物と家財のそれぞれ50%の損害をうけたので、それぞれ建物は全損、家財は半損の区分が適用され、支払い適用になります。
保険始期日は、平成28年12月1日となりますので(詳細資料1)を照らし合わせて計算しましょう。
建物の保険金額1,000万円×全損100%=1,000万円
家財の保険金額500万円×全損50%=250万円
建物と家財の保険金としてもらえる金額=1,250万円
これらはあくまでシミュレーションであり、実際には細かな損害状況に応じて判断されるため必ずしもこの金額とはいえません。
しかし設定した補償範囲や損害の程度によって、もらえる保険金額は大きく異なることがわかります。
対象建物の地域や環境、ご家族の状況などによって、どのくらいの補償があれば充分なのか、実際に地震が起きたことを想定しておくといいでしょう。
地震保険に関するトラブル
地震保険でよくあるトラブルとして、誇張した表現で勧誘され契約してしまう事例が多くあります。たとえば、地震損害の修理です。
<よくある勧誘とトラブル事例>
「この修理代金は全て保険金がでますよ!自己負担ゼロです!」
⇒実際の修理部分は補償の対象外だった為、全額自己負担になってしまった。
「修理費として保険会社へ保険金の支払いを代行しておきます!手間がかかりません」
⇒保険会社から保険金請求代行業者へ保険金が振り込まれたが、いつまで経っても修理が行われない。
無理な勧誘をしてくる住宅業者や保険金請求代行業者、とくに「報酬は支払われた保険金で対応できる」という業者には十分に注意しなければなりません。
このような勧誘を受けたときはすぐに契約をせず、損害保険会社か代理店に相談しましょう。
また、損害保険契約に関する相談窓口として「そんぽADRセンター」があります。一般的な疑問や相談、または保険会社とのトラブル等でお困りの方はこちらへご相談されてはいかがでしょうか。
電話:0570-022808(通話料有料)
受付時間:平日(祝日・休日および12/30~1/4を除く)9:15~17:00
まとめ
ご自身に必要な補償額は、ある程度見積もりできるようにしておく必要がある、ということをおわかりいただけたでしょうか。
地震等の被災後は、国からの支援だけでなく、自力で家族の生活を立て直していく必要があります。国の支援等もすぐに受け取れるとは限りません。
個々の状況によって地震にどのくらい備えるかは変わってくるので備えは万全にしておきたいものです。
一方で、保険料の支払いで現状の生活が苦しいものになってしまっては本末転倒です。
ご自身や家族の生活、環境の変化に応じて保険の補償範囲も見直していく必要があります。
無理のない範囲の保険料で最適な保険を選びましょう。
FPサテライト株式会社所属ファイナンシャルプランナー
フリーランスとして活動中、お金の知識の乏しさを痛感しFP3級を取得。結婚後、夫婦共々保険や不動産のガツガツした人に弱く、上手く話に乗せられやすい性格であることを実感。自身と家計を守るためにFP2級、AFPを取得。現在は複業在宅ワーカー。またFPサテライト株式会社でFPとして活動している。